雑踏の中

下北に着くや否や、遠くを歩く、あの人が目に飛び込んできた。
世界と己とを切り離しているような、冷たい後ろ姿だった。
あの人には、色がない。
騒々しくって、鮮やかなこの世界において、
彼を見つける事はとても、たやすい。
透明少女は、あの人を知らないよう。
未成年に酒を勧める訳にもいかず、一人で飲む酒。
アルコールが体内に入ってもいないのに、
テンション上がりっぱなしの透明少女。
そうさせたのは私だった。
透明少女は何も悪くない。
私があんなもんあげたから。
喜ぶのわかってて、あげたんだから。
いつだって自分が、全て悪い。
なのに、イライラが募り、あの人に八つ当たり。
酷い事を言ってしまう。
あれは、罵声だ。
傷付けるのが好きなのか?
生憎、私にそんな趣味は持ち合わせていないはず。
色白の肌が、みるみる青冷めていくのを、
暗闇の中、はっきりと、この目で感じ取った。
あの人は、血の気のない冷たい目で、私を見下した。
確かに冷たい。
でも、狂おしい程の、綺麗な目をしていた。
今まで、この目でどんな風景を見てきたの?
多分、それが知りたいだけ。
ううん、何も知りたいなんて本当は思っていない。
ただ、その綺麗な目がこの先ずっと、濁らなきゃいいな。
って、ずっと考えてた。
やっぱり私はどこか足りない。
欠陥人間でも許されるのかな?